私は息抜きに漫画を読むことがあります。先日「美味しんぼ」69集に収録されている“寿司に求めるもの”というタイトルのものを読みました。簡単な内容は以下の通りです。
真面目な新進の寿司職人、平月さんの店に友人の紹介で美食家の海原雄山氏が訪れます。最初の来店時、海原氏はうにを注文しますが、出された軍艦巻きのうにを見て食べずに帰ってしまいます。平月さんは困惑して主人公の山岡さん達と原因を考え、北海道から生うにを取り寄せました。海原氏の2回目の来店時にその場で割って新鮮な生うにを出しましたが、やはり食べずに帰ってしまいます。そして3回目の来店時に海苔なしのうにの握りときゅうりで巻いたうにの軍艦巻きを出して、満足してもらうという話です。
海原雄山氏の説明は、1回目のうにはホウ酸処理のもので論外であること。2回目のうには生であることは良いが、惰性的に軍艦巻きにしたことを問題にしました。うには潮の香りが強く、海苔もまた潮の香りが強いために互いの価値を減じてしまうということです。それに比べて3回目は、うにの良さを引き出し、特にきゅうり巻きはお互いの香りが引き立てあって新しい味覚の境地を切り開いたと誉めています。また、うにの軍艦巻きについて、最初に考えた男は非凡だが、それを何の工夫もなく真似している職人が多いことを嘆き、それでは人を感動させる寿司屋にはなれないと論じています。
この話は、我々漢方薬局にも多くのことを示唆しています。例えば肝炎に対する小柴胡湯です。最初に西洋医学の病気である肝炎に、古典に載っている小柴胡湯を使って効果を上げた人は非凡だと思いますが、その後惰性的に使った人は副作用を出し、漢方界に影を落としました。幸い我々には中医学による弁証論治という考えがあります。温故知新の姿勢でお客さんに詳細な弁証をして、正しい論治を行なうことによりよく効く漢方薬を調合し、人々に大きな感動を与えることができる漢方薬局を目指したいと思います。
掲載:日本中医薬研究会「天空」 2000年12月号