今回は夏に多い食欲不振の漢方治療についてお話します。食欲不振は、比較的胃腸が弱くストレスも多い日本人には、よく見られる症状の一つです。食欲不振の原因は数多くありますが、まずは消化管系の疾患(胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃癌など)があげられます。その他にも神経症やうつ病のような精神障害、薬剤の服用による胃腸障害などもあります。最近は拒食症や過食症など摂食障害も注目されています。食欲不振は日常的に見られる症状であるために軽視しがちですが、何らかの疾患が原因となっていることもあるため、症状を繰り返す・体重が減ってきた・症状が激しいなど、気になることがある場合には注意しましょう。
また、健常人でもちょっとした精神的なストレスによっても食欲不振をきたすことはよく経験するところです。健常人であれば、一時的に食欲不振になっても市販の胃腸薬で改善すると思います。しかし、食欲不振の原因になる疾患がある方や胃腸虚弱の方は、かえって症状が悪化することもあります。慢性に食欲不振が続く場合は、体質に合わせた漢方薬を服用して、根本から改善することをお勧めします。
漢方医学では慢性の食欲不振は、「脾」「胃」「肝」の働きが悪くなった状態と考え、体質を考慮して漢方薬を決めます。主なものは、1.胃腸虚弱の体質によるもの2.水分の取りすぎなどでおなかを冷やしたもの3.食生活の不摂生や過度の飲酒によるもの4.ストレスによるもの、などがあります。
1.は胃腸を丈夫にする体質改善を行います。六君子湯(りっくんしとう)、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)などが効果的です。
2.はお腹を温めて水質代謝を改善します。人参湯、参苓白朮散(じんりょうびゃくじゅつさん)などが効果的です。
3.は食生活の改善を行ったうえで、消化を助けます。半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)、晶三仙(しょうさんせん)などが効果的です。
4.はストレスを和らげて胃腸の働きを調和します。開気丸(かいきがん)、柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)などが効果的です。
治療が難しい過食症や拒食症も、4.の方法を中心にした漢方薬を体質に合わせて服用すると、徐々に改善していきます。
掲載:マイドゥー 2006年9月号