今回は多嚢胞性卵巣症候群についてお話します。多嚢胞性卵巣症候群はPCOSとも呼ばれます。また、症候群=syndrome(S)を抜かしてPCO、あるいは多嚢胞性卵巣とも呼ばれます。混同されることもありますが、厳密には多嚢胞性卵巣症候群は無月経、多毛、肥満、卵巣の腫大などの病態を伴い、より重症と考えられています。
多嚢胞性卵巣は形態的変化や臨床症状、内分泌検査から診断をします。
まず形態的変化ですが、卵巣の嚢胞状腫大と白膜の肥厚という特徴があります。卵巣内に10ミリ以下の発育を停止した小卵胞(液体が入った嚢胞状態)がたくさん存在することによって、卵巣が腫れることがあります。また、コラーゲン線維の沈着によって白膜(卵巣の皮)が肥厚して硬化してしまいます。超音波検査では、小さな嚢胞が複数連なって見えますが、これが真珠のネックレスのようにみえるので、ネックレスサインと呼ぶこともあります。
次に臨床症状です、月経異常、不妊、多毛、肥満、男性化徴候などがあります。しかし、日本では欧米に比べて、肥満や多毛の頻度が低いことが報告されています。
最後に内分泌検査ですが、高LH血症、高アンドロゲン血症が中心となり、また糖代謝異常、高インスリン血症も起こりやすくなります。
つまり、多嚢胞性卵巣症候群は卵巣内に卵胞がたくさん存在するものの、卵巣の表皮が硬く厚くなってしまい排卵が難しいということになります。重度になると、排卵障害の中でも難治性の疾患になります。
中医学では、多嚢胞性卵巣は卵巣の周りに淤血や痰湿がこびり付き、卵巣膜が硬くなった病態と考えます。軽度の場合と重度の場合では対応が異なりますが、軽度の場合は活血薬、化痰薬に補腎薬を配合した周期療法が効果的です。中国で周期療法により最初に妊娠した方が多嚢胞性卵巣であったという逸話もあります。
中度〜重度になると排卵障害が顕著になり、ひどい場合は無排卵になります。このようなケースは生理期〜低温期に強力に活血化痰しながら、必要に応じて補腎を行います。特に卵胞内に大きな嚢胞性卵胞が多数存在するときは、強力に活血・化痰・利湿を行い、嚢胞性卵胞を消失させ、良い卵胞が育つことができる環境を整える必要があります。活血・化痰・利湿薬としては、爽月宝、水快宝、桂枝茯苓丸、温胆湯、シベリア霊芝などが効果的です。
多嚢胞性卵巣でも、もともと大きな嚢胞性卵胞がない人、或は大きな嚢胞性卵胞が活血・化痰・利湿薬で消失した人は、良い卵子を育てるために補腎する必要があります。補腎薬は体質や生理周期に合わせて、杞菊地黄丸、瀉火補腎丸、海精宝、海馬補腎丸、参馬補腎丸、参茸補血丸などを使い分けます。
また、多嚢胞性卵巣では10〜30%の人が高プロラクチン血症を伴いますので、炒麦芽や芍薬甘草湯を併用すると効果的です。
漢方薬を服用すると淤血や痰湿が改善されて、卵巣が柔らかくなっていきます。軽度の多嚢胞性卵巣は漢方薬で十分効果があります。重度のケースでも、病院の排卵誘発剤やメトホルミンと漢方薬を併用することによって、良い効果を得ることがあります。
[妊娠ラッシュ!?]
3月4日に「招きパンダちゃん」が届いて、薬局に幸運をもたらしています。3月19日は1日で3人の方から妊娠報告をいただきました!昨日も妊娠報告がありましたので、2日間で4名の方から妊娠報告をいただいたことになります。
実は一昨年の12月末にも同じようなことがありました。通常は平均すると月に4人〜5人の妊娠報告ですので、久々の集中的な妊娠報告です。
そのうちの1人のMさんは、子宮内膜症と卵巣嚢腫、多嚢胞性卵巣(PCO)を持っており、漢方薬を飲む前は1年に2〜3回は無排卵のことがありました。1年以上漢方薬を服用して妊娠できたので、苦労した分嬉しさも大きかったです。
お客さんの喜びの声は、明日への活力になります。今後も多くの方の役に立てるように、日々研鑽していきたいと思います。
掲載:マイドゥー 2009年6月号