先月17日から22日までの6日間、私は中国北京市にある北京中医医院に、今年の四月に続いて2回目の中国漢方(以下「中医学」と呼ぶ)の研修を行ってきました。実際に中医学の治療にふれて、そのレベルの高さを実感することができました。そこで、私の経験を交え、中医学について紹介したいと思います。その前に私と中医学の出合いですが、1年半前の平成5年4月より1年間、高円寺にて中医学の研修塾に入塾したことがきっかけです。そこで、中医学の基礎をみっちりたたき込まれたのですが、すっかり中医学の魅力にとりつかれてしまいました。
それまで私は薬科大学、製薬会社と、漢方とは縁のない世界におりました。製薬会社にいた頃は、東京で大学病院を担当していたので、西洋医学の最新治療の優秀性も見ておりました。それと同時に、人間を臓器の集まり、と考え、検査中心の西洋医学に疑問も感じていました。ところが、中医学を学んだことにより、西洋医学の優れた点を改めて理解することができ、それに優るとも劣らない中医学の世界にひきつけられて、現在に至っております。
今回の北京中医医院での研修で、中国での中医治療を体験して、中医学が本当に優れていることを確信することができました。
さて、最近は漢方ブームで、漢方は私たちの身近なものになってきましたが、まだ誤解が多いように思えます。本場中国の医療事情と、今回の研修内容を紹介することで、少しでも漢方について理解して頂ければと思っております。今回は現在の中国における医療事情について紹介しようと思います。
中国の医療と言えば漢方だけと思っている人もいるかもしれませんが、もちろん西洋医学もあります。中国では中医学と西洋医学の大学や病院があります。特徴としては、中医学の病院にも西洋医学科があり、西洋医学の病院にも中医学科があることです。
患者は自分の意思で、中医学の病院か、西洋医学の病院かを選ぶことができます。つまり、現在の中国では、中医学と西洋医学は学問として対等な立場にありもちろん中医師と西洋医師も対等であります。現在のようになるまでには、中国では、いろいろな歴史がありました。中国に西洋医学が入ってきたのは1827年頃と言われており、その後、中国でも、日本同様西洋医学が主流になりかけた時期もありました。その時代、中医学と西洋医学の激しい論争がありましたが、結果的には現在のようにお互いを認め合うことになりました。現在の主流は中西医結合と言い、お互いのよい所を生かして治療効果を上げようという方法です。この方法で中医学は現在もさらに発展しており、とても高い治療効果を上げています。
掲載:沼津朝日新聞 1994年11月16日