今回は「下痢」の漢方治療についてお話します。「下痢」とは大腸の働きが過度に活発になったり、腸管に水分が十分に吸収されないために軟らかい便が頻繁に排出される状態のことを言います。急性の下痢は、感染症や食事に関連するもの、暴飲暴食、冷え、神経性のものがあります。慢性の下痢は、胃腸虚弱の体質が原因の方が多く見られますが、潰瘍性大腸炎などの炎症性や、消化不良、内分泌疾患などが原因となることもあります。急性の下痢は、抗菌薬や下痢止めなど西洋薬の服用などでも回復しますし、勝湿顆粒(しょうしつかりゅう)などの漢方薬も効果的です。一方、ストレスや食事など生活習慣、あるいはもともと体質が虚弱で下痢しやすいというときには、慢性化して日々下痢に悩まされることも少なくありません。このような場合は特に漢方薬が効果的です。漢方医学では、単に下痢を止めるばかりでなく、腸の状態を正常に戻す治療を行ないます。ですから、慢性化して治りにくい下痢でも、体質から改善することで効果を上げることができます。漢方医学では、下痢の状態と体質を考慮して、処方する漢方薬を決めます。主なものは、
1.胃腸虚弱で食欲が少なく、軟便になる
2.お腹が冷えて、水様性の便になる
3.夜明け前に腹痛して便意を催し、水様性の便になる
4.腹部の張りが強く、軟便で排便後すっきりしない
などがあります。
1.は胃腸を丈夫にする体質改善が大切です。六君子湯(りっくんしとう)、参苓白朮散(じんりょうびゃくじゅつさん)などが効果的です。2.はお腹を温めることが大切です。人参湯(にんじんとう)、附子人参湯(ぶしにんじんとう)などが効果的です。3.は「五更瀉(ごこうしゃ)」といわれ、お腹の冷えが腎まで及んでいるため、根本から冷えを改善することが大切です。真武湯(しんぶとう)、四神丸し(しんがん)などが効果的です。4.は過敏性腸症候群に良く見られ、ストレスを和らげて腸の働きを調和することが大切です。開気丸(かいきがん)、柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)などが効果的です。
さて、腸が正常に働かないというのは下痢だけでなく便秘にも共通することです。そのため漢方薬には「下痢にも便秘にも効く」というものが少なくありません。便秘と下痢を繰り返したりする過敏性腸症候群の治療には、とくに漢方薬が向いていて、よい効果を上げています。
掲載:マイドゥー 2006年8月号