日本中医薬研究会・本部学術委員会の仕事で、去る7月17日〜22日の間、北京に行ってきました。今回は中国衛生部(日本の厚生省と同じ)の招待で行ったため、中国滞在中は2人の優秀な通訳と運転手が付いてくれ、非常に助かりました。
3年ぶりの訪中となりましたが、北京の発展の速さには本当に驚かされました。思えば三年前は、まだ広い道路も少なく、自転車が多くて車はそれほど多くありませんでした。また、高層ビルも郊外に少しできはじめた程度で、中心部はあまり整備されていませんでした。
ところが、現在の北京は、郊外に向かって広い環状道路がいくつかでき、その周りに高層ビルが並び、車の交通量は非常に多く、自転車はむしろ減っていました。町の中心部も道路が舗装され、人々のファッションも以前と異なり、国際化していました。
デパートでは携帯電話やポケットベルが売られており、町のあちこちでマクドナルドやケンタッキーが見られ、本当に面食らいました。まだまだたくさんの変化に気付きましたが、とても誌面では表現しきれません。
さて、今回の訪中の目的は中国の漢方事情の視察と2人の老中医(中国では経験が豊富な漢方医を尊敬をこめてこう呼ぶ)と会って話を聞くことでした。本場中国の漢方は以前にも増して臨床方面も研究方面も製剤技術も発展していました。
現在の中国の漢方医は中医薬大学に5年間通った後、さらに5年間の臨床経験を要求されます。日本と異なり個人で開業することはほとんど無く、大きな病院に所属して様々な訓練を受けます。特に北京のような都会は優秀な漢方医や漢方病院が多く、レベルの高い漢方医を養成するシステムがしっかりしています。
お会いした二人の老中医は、とても温厚で臨床経験も豊富です。それぞれの先生の臨床経験について、中身のある良い話を聞くことができました。
専門的な治療の話も聞きましたが、それ以外に「患者さんにはやさしく接し、良く話を聞いて不安を取り除くこと。常に勉強し、自分の人格を研くこと」と強調しておられたことが印象的でした。このような有名な老中医と会って直接話を聞く機会は、我々漢方家にとっても滅多にあることではないので、大変有意義な時間となりました。
今回の中国旅行は、期間は短かったのですが、とても中身が濃く、私も一人の漢方家として多くのことを教えられました。やはり中国の漢方は奥が深く、今後はできれば年に1回くらいは訪中したいと改めて感じました。
掲載:沼津朝日新聞 1998年8月5日