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不妊症にとても効果的な周期療法

周期療法とは

結婚して避妊をせずに通常の夫婦生活をしているにもかかわらず、2年以上子供ができない場合は一般に不妊症といわれています。最近では1年で子供ができなければ何らかの不妊につながる障害があるという考え方もあるようです。
近年中国では中西医結合といって伝統的な中国医学の治療法に西洋医学の考え方を結合してより治療効果を高める方法が一般的に行われています。周期療法はこの中西医結合によって作られたすばらしい治療法です。周期療法の最大の特長は、生理周期にあわせて漢方薬を使い分けて妊娠の確率を高めることです。

上記の表を見てください。周期療法は生理周期(生理期、低温期、排卵期、高温期)にあわせて異なる漢方薬を服用しますが、各時期の基本的な治療方針は以下のようになります。

生理期 活血薬と理気薬を併用して、子宮内の血液をきれいに排出させる。
低温期 補陰血薬を中心に少量の補陽薬を併用して、子宮内膜を増殖し成熟卵胞を育てる
排卵期 補精薬と活血薬を併用して、排卵をスムーズにする。
高温期 補陽薬を中心に少量の補陰血薬を併用して、受精卵を子宮内に着床させ妊娠を継続できるようにする。

女性の体は生理周期によって女性ホルモンの分泌が異なり体調も変わってきますので、生理周期にあわせて漢方薬を使い分ける周期療法は大変効果的です。

漢方コラム周期療法の歴史夏桂成先生を訪ねて周期療法は体質に合わせても参照してください。

基礎体温による周期療法の実際

周期療法を行う際は、基礎体温の情報から体質を判断します。代表的な6つのタイプの基礎体温とについて解説します。


1.正常タイプ

正常な基礎体温は以下のグラフのように1.高温期が12~14日続く2.高温期と低温期の差が0.3~0.5℃ある3.低温から高温へ1~2日以内に移行する という3つの条件が揃っています。

正常に近い基礎体温でも妊娠できない場合は基本的な周期療法を行います。


2.低温期が長く、高温期が短いタイプ

不妊症の方に比較的良く見られるタイプです。卵子の成熟が悪く排卵が遅れ、その結果黄体ホルモンの分泌が悪くなります。西洋医学では黄体機能不全、軽度の排卵障害などが考えられます。

このタイプは低温期に陰血が不足して陰が長じることができないために、排卵期にスムーズに転化できず、高温期に陽が不足して短くなります。低温期にしっかりと陰血を養いながら少し陽を補うことが大切です。


3.高温期への移行がゆるやかなタイプ

このタイプも不妊症の方に比較的良く見られます。西洋医学では黄体機能不全、排卵障害、高プロラクチン血症などが考えられます。

このタイプは排卵期に1.陽気不足により体温が上がらないケース2.淤血などが体温の上昇を妨げるケースが考えられます。プロラクチンが高いことが原因になるケースも見られます。全身症状より弁証して適切な漢方薬を組み合わせます。


4.波動が激しいタイプ

ストレスが多く、自律神経が不安定な方に良くみられます。西洋医学では高プロラクチン血症、月経前緊張症候群、自律神経失調症などが考えられます。

このタイプはストレスにより肝気の疎泄作用が乱れ、体温も不安定になっています。肝気を整えてストレスを和らげることが大切です。


5.低温期が短い或は高すぎるタイプ

低温期が短く排卵が早い或は低温期の体温が高すぎるタイプです。西洋医学ではホルモン分泌過多が考えられます。

このタイプは陰が不足して相対的に陽気が過剰になっています。陰が不足しているので排卵期のおりものが少ないことが多く見られます。低温期にしっかりと滋陰を行うことが大切です。


6.高温期がないタイプ(1相性)

いわゆる無排卵です。西洋医学では卵巣機能不全、多嚢胞性卵巣、高プロラクチン血症などが考えられます。

このタイプは排卵がないので、周期療法を行うことが難しいです。無月経の場合は補腎+養血+活血の漢方薬を症状により加減して服用します。

*上記の1~6のタイプですが、時には2つ~3つのタイプが混ざっていることもみられます。このようなケースは基礎体温と体質、症状をしっかりと分析して、個々の体質にあわせた漢方薬を選択することが大切です。 なお、周期療法でよく使われる漢方薬は、以下になります。

漢方コラム婦人の聖薬「当帰」不妊症に効果的なサプリメント、についても参照してください。

特殊なケースについて

1.子宮内膜症
子宮内膜症とはもともと子宮の内側にしか存在しないはずの子宮内膜が、それ以外の場所に発生し、そこで増殖する疾患です。子宮筋層に発生したものは子宮腺筋症と呼ばれています。
子宮内膜症の症状としては生理痛が有名ですが、無症状の方も多く、検査をして初めて子宮内膜症がわかったというケースも多く見られます。自覚症状がなく子宮内膜症が進行しているケースもあり、重度になると卵巣嚢腫、卵管癒着による狭窄、子宮腺筋症による着床障害などの症状が問題となります。近年子宮内膜症は不妊症の原因として重視されてきており、原因不明な不妊症の方の約50%が子宮内膜症を合併しているという報告もあります。
中医学では子宮内膜症を淤血と考えています。私の経験では、重度のケースを除けば漢方薬はとても効果的です。
不妊症には子宮内膜症が関係することが多いということもあり、周期療法を行う際も生理期~排卵期に淤血の改善を行うと効果が上がることが多く見られます。


2.子宮筋腫
子宮筋腫は、女性疾患の中で、最も多い腫瘍で、日常でよく見られる疾患です。特に30歳代後半から40歳代前半の主婦によく見られます。子宮筋腫は発生場所により大きく3つに分けられます。最も多い発生場所は筋層内筋腫(きんそうないきんしゅ)、次に漿膜下筋腫(しょうまくかきんしゅ)、そして粘膜下筋腫(ねんまくかきんしゅ)です。
子宮筋腫は良性の腫瘍ですが、子宮筋腫のできる場所によっては、着床の障害になったり子宮の変形が問題になることがあります。よって、不妊症や流産の原因になることがあります。
漿膜下筋腫は子宮の外側にあるため、症状があまりおこりません。ただ、大きくなると腸や膀胱を圧迫するため、便秘や頻尿などの症状がでることがあります。小さい場合は妊娠にそれほど悪い影響を与えないので、特に治療しなくても良いようです。しかし、サイズが大きくなると積極的な治療が必要になります。漢方薬としては、活血化淤薬や化痰薬を使います。
筋層内筋腫は子宮の収縮がうまくいかなくなり、生理痛がひどくなることがあります。また、生理が止まりにくくなることもあります。漢方薬としては、活血化淤薬を基本として、利気化痰薬を併用します。
粘膜下筋腫は子宮内膜にあるため、生理とともに排出されてとれてしまうケースがあります。このタイプは一般的に生理の量が多くなります。ひどい場合は、大量に出血して止まらなくなる事もあるようです。漢方薬としては活血化淤薬を使いますが、出血が多い場合は注意が必要です。このようなケースでは、生理中は止血作用のある漢方を使い、生理中以外に活血化淤薬を多く使うこともあります。
いずれのタイプでも、あまりにもサイズが大きいときは、手術を考慮する必要があります。一般的には、鶏卵大までなら、漢方薬で子宮筋腫が小さくなったり、無くなるケースがあります。それよりも大きい場合でもサイズが小さくなるケースがありますので、漢方薬を試してみる価値はあります。


3.高プロラクチン血症
プロラクチンは乳腺を刺激して乳汁を分泌させるように働く催乳ホルモンです。高プロラクチン血症の方は授乳期でもないのに母乳が出ることがあります。一方検査で異常がなく母乳の分泌もないのですが、ストレスがあったときなどにプロラクチンが高くなる潜在性高プロラクチン血症もあり、やはり不妊症の原因となります。潜在性高プロラクチン血症はTRHテストという負荷テストでわかります。
高プロラクチン血症が不妊症の問題となるのは、視床下部の刺激ホルモンを抑制して、排卵障害や黄体機能不全を招くためです。
漢方薬では炒麦芽(いりばくが)や芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)がプロラクチンを下げる作用があることが知られています。炒麦芽や芍薬甘草湯は病院の薬に比べるとプロラクチンを下げる力は弱いですが、副作用がなく安全です。


4.多嚢胞性卵巣(たのうほうせいらんそう)
多嚢胞性卵巣は、病院で超音波検査を受けると、卵巣の表面に直径5~10ミリほどの小さな嚢胞が複数連なって見えます。これが真珠のネックレスのようにみえるので、ネックレスサインと呼ぶこともあります。多嚢胞性卵巣は状態が悪化すると、卵巣の中にある卵胞は成長するものの、卵巣の皮膜が固いため排卵しづらいという症状がでます。重度になると、排卵障害の中でも難治性の疾患になります。血液検査では、LHの高値、男性ホルモンの高値、インスリン抵抗性などが見られます。
中医学では、多嚢胞性卵巣は卵巣の周りに淤血や痰湿がこびり付き、卵巣膜が硬くなった病態と考えます。軽度の場合と重度の場合では対応が異なりますが、軽度の場合は活血薬と化痰薬を配合した周期療法が効果的です。
中度~重度になると排卵障害が顕著になり、ひどい場合は無排卵になります。このようなケースは生理期~低温期に協力に活血化痰しながら、必要に応じて補腎を行いますが、クロミッドなどの排卵誘発剤を併用するほうが効果的なこともあります。


5.卵管の狭窄または閉塞
輸卵管の通過障害の原因としては子宮内膜症、感染症などがあります。輸卵管の炎症や癒着がひどければ手術などにより癒着を取り除くことを考えます。また、卵管が完全に閉塞している場合は、体外受精しか妊娠する方法がないので、漢方薬は体外受精の成功率を高めることを考えます。
癒着がそれほどひどくなければ、漢方薬が効果的です。生理期~低温期に活血薬を配合して癒着を除き、排卵期にさらに強力な活血通絡作用の漢方薬を加味すると良い効果があります。


6.生理周期が不安定なケース
無月経の人や生理周期があまりにも不安定な人は、周期療法を行う前に月経周期を整えるようにします。月経周期を整える場合は体質や症状によりさまざまな漢方薬を使い分けますが、養血調経を中心に考えます。
月経周期を調節する漢方薬を飲んでいるうちに妊娠するケースもありますが、2~6周期服用して月経が整っても妊娠しない場合は、周期療法に移るようにします。月経周期を調節する漢方薬で基礎つくりができると、周期療法がうまくいくケースも見られます。

 

漢方コラム子宮性不妊について 子宮内膜症について 卵巣性不妊について 高プロラクチン血症 習慣性流産について 男性不妊についてについても参照してください。

西洋薬との併用について

私の店で周期療法を行われる方の6割~7割はすでに婦人科を受診しています。受診している方の多くは、クロミッドなどの内服の排卵誘発剤、注射によるHMG―HCG療法、ホルモン療法のいずれかの治療を行っています。そこで、病院の薬と漢方薬を併用するポイントについて説明します。

■クロミッドなどの内服の排卵誘発剤
クロミッドなどの排卵誘発剤は、排卵が遅れるためにタイミングが合わず、妊娠しにくい方には一定の効果があります。しかしクロミッドには子宮内膜が薄くなる、排卵前後の経管粘液(おりもの)が少なくなるという副作用があります。よって6ヶ月以上の長期使用はむしろ妊娠率が悪くなると言われています。クロミッドを使っている方は低温悸に養血滋陰の漢方薬を併用することで、副作用を軽減して妊娠率を高めることができます。

■HMG―HCG療法
HMG―HCG療法は直接卵巣を刺激して排卵を誘発するので効果は高いですが、一部の方は卵巣の腫れや血栓ができるという副作用があります。また、子宮内膜に炎症や浮腫を起こすこともあります。低温期に理気活血の漢方薬を併用すると、副作用を未然に防止することができます。このような副作用がなければ周期療法との相性は比較的良く、排卵障害がある方の妊娠率を高めることができます。

■ホルモン剤
ホルモン剤を使う目的は、黄体機能不全の改善に使うケースとカウフマン療法によって卵巣を休ませるケースがあります。

    1. 黄体機能不全

高温期に黄体ホルモン製剤を補充します。見かけの高温期は長くなりますが、自分が分泌する黄体ホルモンが増えているわけではないので、根本的な解決にはなりません。また黄体ホルモン剤の影響で、生理になっても体温が下がりきらないことが多く見られます。生理期に理気活血化痰の漢方薬を多く使い、十分な排泄を行うことで次の周期への悪影響を避けるようにします。

    1. カウフマン療法

先天的な月経不順や無月経、排卵誘発剤の使いすぎによる卵巣の衰えがひどく、排卵誘発剤でも反応しなくなった場合に卵巣を休めるために行います。カウフマン療法を行う場合は排卵が起きないので、質の良い卵子を作ることを目的とした周期療法は適していません。カウフマン療法が終了した次の周期は排卵がおきる可能性があり、その際は周期療法を併用すると大変効果的です。
ホルモン剤を使うと子宮内膜がでこぼこになるといわれています。養血活血の漢方薬を使うことで子宮内膜の状態が改善しますので、ホルモン剤を服用しているときに漢方薬を併用することは大きな意味があります。

病院の薬と漢方薬を併用するケースは、上記以外にも様々なケースがあります。私は漢方薬による体質改善を主体に考えていますが、排卵障害がひどいケースなどでは、病院の薬を併用することも考慮する必要であると思っています。

 

漢方コラム西洋薬との併用も参照してください。

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資料提供:日本中医薬研究会

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