時間に追われる処方せん調剤が、増えれば増えるほどに、時間をかけざるを得ない漢方相談はおろそかになる。相談を重視する薬局では常にこうした悩みがつきまとう。静岡県沼津市の小島薬局は、難しいとされる処方せん調剤と漢方相談を両立させている。どのような取り組みで両立が可能になったのか。小島薬局を訪ねた。
小島薬局は、静岡県の沼津や三島を拠点として8店舗を展開している。いずれの店も、医薬分業の進展に伴い、処方せん枚数は増えており、現在8店舗合わせて毎月13,000~15,000枚を受け入れている。
小島薬局の創業は1970年。創業者は小島俊夫氏。創業当初よりOTCや化粧品販売を主力にする一方、漢方相談にも力を入れていた。「創業者の父は、いずれは医薬分業が進み処方せんが発行されるとみていましたので、近隣で開業する別宮(べっく)医院に、アプローチしていました。」と語るのは、漢方相談を一手に引き受ける小島晃氏(東薬大卒)。8年前に別宮医院が全面分業をスタートさせたことで、一日に100枚~150枚の処方せんが発行されるようになった。
当然、同店では薬剤師のスタッフを充実させ、増える処方せん調剤と服薬指導に全面的に対応したものの、当初から力を入れてきた漢方相談部門が手不足になってきた。また、目と鼻の先にOTCや化粧品販売に力を入れるドラッグストアがオープンし、その影響を少なからず受けて客数の減少に陥った。
創業当時は同店の商圏内に競合店、とくに大型ドラッグストアの出店はなかっただけに、「化粧品販売では、沼津で売り上げ上位の3本柱に入るほど力を入れていましたし、OTC部門も経営の柱としてきただけに、それなりに経営は安定していましたから、大型ドラッグストアの出店は大きな打撃でした。調剤部門は確かに急増しましたが、かたわら客数のダウンへの対応として、長年続けてきた漢方相談部門の充実が当店にとっては急務だったのです。」(小島晃氏)。
そうこうするうちに医薬分業は急速に進み、発行医療機関数も増加する一方で、調剤部門は日増しに忙しくなった。当時小島氏は、製薬会社勤務を経て中国医学の研修塾で修行中だったが6年前に戻ってきた。
「自分自身は、最初から漢方に興味を持っていたわけではありませんでした。薬科大を卒業後、製薬会社で2年半営業活動に専念し、現代医学に疑問を感じていたころ、縁があって中国医学の塾で学ぶ機会を得ました。中国漢方は理論的でわかりやすく、これが私にとっては大きな岐路となったのです」と晃氏。結局このことが、小島薬局における調剤と漢方相談を両立させるきっかけとなったのだ。
小島薬局西沢田店はJR沼津市駅から車で15分の地にある。角地にある同店の店頭は、壁面の一面に描かれた、中国漢方のキャラクター、パンダの絵が目に飛び込んでくる。20坪弱の店内の左手は晃氏が一手に相談を引き受ける漢方コーナー、右手奥が調剤の待合室と調剤室、そして2階には漢方の調剤室がある。
調剤部門のスタッフは1階の調剤室に薬剤師6人(常勤3人、パート3人)、事務は3人(内パート1人)、2階の調剤室は主に晃氏の漢方部門。現在の処方せん調剤の発行医療機関は、別宮医院をはじめ沼津市立病院など10~13施設で月に平均3,500枚~4,000枚。9~10件の在宅医療分野も手掛けている。調剤の主力発行医療機関は別宮医院。
「調剤部門以外の来店客数は1日に25~30人程度。このうち純粋な相談客は10~15人ほどで私が担当しています」。晃氏は、中国衛生部直轄の中国国際試験センターが主催する、国際中医師能力認定試験に合格した中医師でもある。受験資格を得るため東京にある「北京中医薬大学日本分校」で3年間猛勉強してきた。3年前の5月に試験に挑み合格した。
漢方相談は初めてのケースは大体30分程度かかるが2回目からは病状によっても異なるが、5~15分程度で済む。細かく問診をして相談客の症状を聞き出し、中国漢方を中心とした適切な薬剤を選定し、推奨するが、晃氏は、「相談客の悩みを解消するためには、自分自身のレベルをさらにアップさせて、漢方の専門家として相談客の信頼を得ることが大切です」と語る。
相談客に推奨する漢方薬はもっぱら煎じ薬とエキス剤、中成薬が多い。大型ドラッグストアの出店によって急激に落ち込んだ客数は晃氏が一手に引き受けてきた漢方相談によって徐々に回復、ここへきて順調に増えてきた。
ひとつの建物の中に、調剤専門と漢方専門の”2つの薬局”が共存共栄し営業している小島薬局。現在の売り上げは調剤が7割を占めているが「これからは、さらに漢方相談の比重を高めたい。漢方治療のレベルを高め漢方と調剤の、”2つの薬局”の両立経営を充実させたい」と晃氏は語る。